心のゆれ動き

Arwy Official

天方伯爵は、いよいよ、ロシアを経て、日本へ帰国することになった。豊太郎は、伯爵に随行することを、すでに、内々に、約束していた。 けれど、エリスには、まだ、何も告げていなかった。告げることが、できなかったのだ。豊太郎は、毎日、伯爵のもとで働きながら、心の奥では、たえず、エリスのことを思い、苦しんでいた。彼女に、本当のことを話せば、彼女が、どれほど、悲しむことか。その姿を想像するだけで、豊太郎は、胸が、張り裂けそうだった。 豊太郎は、自分の心が、ふたつに、引き裂かれているのを感じた。一方には、出世への道、母への孝行、国家への奉公という、これまで信じてきた「義務」がある。もう一方には、エリスへの愛、生まれてくる子への責任という、人としての「情」がある。そのどちらも、捨てがたく、また、どちらも、両立しないのだった。 相沢は、豊太郎に、はっきりと、こう言った。「エリスのことは、きっぱりと、あきらめるのだ。情にほだされていては、大事を、なし

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