先生の影
Arwy Official
先生の家に通ううちに、私はあるひとつの習慣に気づいた。先生は月に一度、必ずどこかへ出かけるのだ。奥さんに聞いても、先生がどこへ行くのか、はっきりとは教えてくれなかった。ただ、その行き先が雑司ヶ谷の墓地であることだけは、やがて私にもわかってきた。 「あそこには、私の友達が眠っているんだ」と、先生はあるとき短く言った。それ以上は語らなかった。けれど、その「友達」という言葉に、先生の声がかすかに沈むのを、私は聞き逃さなかった。先生にとって、その人はただの友達ではないのだと、私は直感した。 先生は人付き合いをほとんど断っていた。学問のある人なのに、世に出て何かをしようという気配がまるでなかった。私はもったいないと思った。あるとき、思いきってそう言ってみると、先生は寂しそうに笑った。「私はね、自分で自分を信用できない人間なんだ。そういう人間が、どうして他人の前に出られるだろう」。 私には、先生のその言葉の重さがまだ理解できなかった。けれど…