金持ち一家
Arwy Official
苦沙弥先生の家の近所に、金田という実業家の一家が住んでいる。この金田という男は、たいそうな金持ちで、大きな屋敷に住み、何人もの使用人をかかえている。けれど、その態度ときたら、いかにも金にものを言わせた、いやみなものだった。 吾輩は、ときどき散歩のついでに、この金田の屋敷へしのびこむ。広い庭には、立派な木々が植えられ、池には大きな鯉が泳いでいる。けれど、その豪勢さの中には、苦沙弥先生の貧しい書斎にあるような、あたたかさや、おかしみが、まるで感じられないのだ。金ばかりがあって、心がない——そんな屋敷だった。 この金田家には、富子という娘がいた。年ごろの娘で、両親は、この娘を、なるべく身分の高い、見栄えのする男にとつがせようと、やっきになっていた。そして、その候補のひとりに、なんと、あの寒月の名が挙がっているらしいのだ。寒月は、まだ若いが、将来は博士になるかもしれない学者である。金田夫妻は、それに目をつけたわけである。 金田の妻は、た…